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争議行為が行われた場合、会社は従業員に賃金を支払わなければならないでしょうか?

A.各従業員との契約内容、対象となる従業員が争議行為に参加していたか、対象となる従業員が争議行為をした組合に所属しているか等によって、結論が異なってきます。

賃金についての考え方

従業員の賃金請求権の内容は、原則として個々の契約の内容によって左右されることになります。例えば、ストライキ中でも家族手当などを支給する旨の契約内容となっていれば、ストライキ中でも一定額を請求できることになります。そのため、賃金を支払う必要があるかを考える場合、まずは個々の契約内容を確認する必要があります。

もっとも、個々の契約の中で、争議行為が起こった場合の賃金についてまでは、細かく定めていないことも多々あります。このように、個々の契約内容を見ても、争議行為がなされた際に、賃金を支払うべきかが判断できない場合には、民法等の法律の考え方を前提に、場合分けをして考えていく必要があります。

場合分けとしては、(1)争議行為に参加した人の場合(2)争議行為に参加していないが、争議行為をした組合に入っている人の場合(3)争議行為に参加しておらず、争議行為をした組合にも入っていない人の場合、という3つに大きく分かれます。以下では、個々の契約で支払うべきかが分からないことを前提に、3つのそれぞれの場合に分けて説明をします。

(1)争議行為に参加した人の場合

争議行為に参加して、労務を提供しなかった労働者は、争議行為が正当であろうとなかろうと、実際に労働がなされた場合に初めて賃金請求権が発生するという、いわゆる「ノーワーク・ノーペイの原則」により、賃金請求権を有しないのが原則です。

そして、このノーワーク・ノーペイの原則にしたがって賃金カットを行う場合に、賃金のどの部分がカットの対象になるかが問題となります。この点について、最高裁判例は(三菱重工長崎造船所事件最二小判昭和56・9・18)、「ストライキ期間中の賃金削減の対象となる部分の存否及びその部分と賃金削減の対象とならない部分の区別は、当該労働協約等の定め又は労働慣行の趣旨に照らし個別的に判断するのを相当」と述べています。したがって、賃金カットすべき範囲は、労働協約、就業規則、契約、労使慣行等に照らして、判断することになります。

(2)争議行為に参加していないが、争議行為をした組合に入っている人の場合

使用者の「責めに帰すべき事由」によって従業員が働けなかった場合、従業員は労務を提供していなくても一定額の請求ができることになります(民法536条2項、労働基準法26条)。そのため、従業員が働けなくなった原因について、使用者の「責めに帰すべき事由」があるかによって、結論が異なってきます。

例えば、団体交渉がうまくいかなかった結果、争議行為が起きて、従業員が働けなくなったという場合で、使用者が団体交渉を不誠実に拒んでいたときには、使用者に「責めに帰すべき事由」が認められ、賃金を支払わなければならない可能性があります。一方、同じ場合でも、使用者が誠実な対応をしたうえで、正当な理由で要求を拒んでいたときには、「責めに帰すべき事由」はないとして、賃金を支払わなくてよいとされる場合もあります(ノースウェスト航空事件最二小判昭和62・7・17)。

(3)争議行為に参加しておらず、争議行為をした組合にも入っていない人の場合

労働基準法26条は、労働者の生活保障のため、使用者の「責めに帰すべき事由」で休業になった場合、一定の休業手当を支給するように定めた規定です。そして、この目的の実現のため、労働基準法26条の「責めに帰すべき事由」とは、使用者に明らかな過失がある場合だけでなく、使用者の経営、管理上の障害を含むとされています(前掲ノース・ウエスト航空最高裁判決参照)。

そして、この(3)に含まれる従業員の場合、自身と全く関係ない組合と使用者とのやりとりが原因で働けなくなっており、使用者の経営、管理上の障害で働けなくなったと評価できるため、労働基準法26条に基づく休業手当等を請求できるとされています。

争議行為がなされた場合、賃金を支払わなければならないかについては、契約の内容や労働者の種類、争議行為が発生した経緯等によって異なってくるため、個別具体的な事情を踏まえて判断する必要があります。

ご不明点等があれば、お気軽に弁護士までご相談ください。